【概要】

フィリピン共和国(以下、フィリピン)は東南アジアに位置する島国で、約7,100の島々からなっています。東南アジアでは東ティモールと並ぶキリスト教国です。スペインとアメリカによる植民地支配、第2次世界大戦中の日本軍政支配、アメリカによる再植民地化などの過酷な歴史を経て、1946年に独立しました。主要産業は農林水産業ですが、近年では高い英語力を生かしたビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業を含めたサービス業やリゾート地を中心とした観光業も中心的な産業として大きく成長しています。

人口:1億903万5,343人(2020年フィリピン国勢調査)

民族:マレー系が主体。ほかに中国系、スペイン系及び少数民族がいます。

言語:国語はフィリピノ語、公用語はフィリピノ語及び英語。180以上の言語があります。

宗教:ASEAN唯一のキリスト教国。国民の83%がカトリック、その他のキリスト教が10%。

イスラム教は5%(ミンダナオではイスラム教徒が人口の2割以上)。

産業:ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業を含むサービス業(GDPの約6割)、鉱工業(GDPの約3割)、農林水産業(GDPの約1割)(2021年)

GDP:3941億米ドル (2021年)

賃金:NCR マニラ首都圏の最低日当賃金は533~570ペソ、賃金が最も低いBANGSAMORO AUTONOMOUS REGION IN MUSLIM MINDANAO地域で306~341ペソ(2022年6月4日~)

※1万円両替で、4,239ペソ(2023年1月19日マニラ市内両替所にて)

送出し機関:DMW(フィリピン移民労働者省-Department of Migrant Workers)が送出し機関のライセンスを発行し、管理監督を行っています。

注:2022年まではPOEA (フィリピン海外雇用庁-Philippine Overseas Employment Administration)が監督機関でした。2023年からDMWへシフトしていますが、移行過渡期のため、情報が前後する場合があります。

国内法規やルール:POEA Rules And Regulationsという送出し機関ルールがあり、この法律と二国間協定に基づいて制定された技能実習制度や特定技能制度のガイドラインによって送出しシステムが定められています。

フィリピンでは、海外で働くフィリピン人のことをOFW(Overseas Filipino Workers)と呼びますが、OFWの人たちが本国へ送金する金額がフィリピンのGDP10%を占めています。海外への出稼ぎ文化が盛んであるがゆえに海外労働者派遣(紹介)については、厳しく管理監督されています。

ちなみに、OFWの中でも、技能実習はTITP(Technical Intern Trainee Program)、特定技能外国人はSSW(Specified Skilled Worker)と呼称されます。

0.契約提携書類

送り出し機関との提携契約には、フィリピンの出先機関であるPOLO(フィリピン海外労働事務所-Philippine Overseas Labor Office)による提携の手続き、コレを終えた後に、送り出し機関によるDMWへの認証が必要となります。

そのためには、様々な書類が必要です。

また、監理団体との提携書類、実習実施者に求められる書類、特定技能受入機関が提携する際の書類など、それぞれに同じ書類もあれば、違う書類もあります。また日本同様に手続き書類のフォームも時折変更となりますのでご注意ください。

尚、フィリピンの送出し機関との契約期間は最長4年であり、4年を超えて再度求人登録を行おうとする場合には、協定書(契約書)を再度提出する必要があります。また、4年経過時に求人登録はされているけれどもまだ送り出しの完了していないものについては、その効力が失効し、予定通り出国できない可能性がありますので、ご注意下さい。

(提携時に必要な書類例、Recruitment Agreement、Job Order、Addendum、Affidavit…などなど)

*詳しくはPOLO東京、POLO大阪のHPをご確認ください。

POLO東京 https://polotokyo.dole.gov.ph/

POLO大阪 https://poloosaka.dole.gov.ph/

それぞれに大使館、領事館内にあります。なお、名古屋にフィリピン領事館が開設されましたが、POLO駐在部署はありません。

注:各書面にも様々な有効期限がありますので、忘れた頃に再提出や更新を求められる場合があります。

1.1社ルール

フィリピンには1社ルールというものが存在し、外国のフィリピン人受入企業(もしくは職業紹介会社など)は当初、1社の送出し機関としか提携できません。

高度専門職、技人国、特定技能の直接受入については、受入企業に対し、1社の送出し機関、技能実習の場合は、監理団体に対し、1社の送出し機関のみが提携できます。

技能実習については、あくまで監理団体と送出し機関の提携となるため、技能実習の送出し機関と特定技能の送出し機関が異なっていても問題ありません。

これには特例が設けられており、特定技能の場合で50名以上、技能実習の場合は、一般監理団体かつ介護職で25名以上、その他の職種で50名以上の受入実績があれば、2社目の送出し機関と提携できるとされています。

しかし、実際にはPOLOとDMWの判断によります。

2.送出し機関の変更

1社ルールにより、より良い送出し機関を探し、提携することがより困難となっているフィリピンですが、実際には送出し機関の変更手続きにより、提携先を変えることが可能です。

所定の書式に従って、POLOへの求人登録申請の際に行うことができます。旧送出し機関にはDMWから変更申請があった旨の連絡が入り、それに対して異議申し立て等なければ、変更手続きが完了します。

ただ、実際には旧送出し機関がそれに対して何も返答しないためPOLOが判断に迷うケースが多く、結果、POLOから送出し機関変更に関する同意書(No Objection Letter)の提出を求められることが多くなっています。

基本的に旧送出し機関から受け入れた人材の管理監督、その他の義務責任の負担については、旧送り出し機関との協定(契約)で定めた内容につき、受入側がフィリピン人労働者との契約終了までその義務を負うことになります。

3.求人登録

フィリピンからの労働者の受入には、雇用条件等の事前審査を受ける必要があります。

主に東日本を管轄するPOLO東京(フィリピン大使館内)、西日本を管轄するPOLO大阪(フィリピン領事館内)に所定の求人手続き書類を提出し、POLOからDMWへの推薦状を発行してもらう必要があります。

総じてPOLO東京の方が審査が厳しく、給与(技能実習で最低賃金プラスアルファ、特定技能で最低賃金プラス100円以上が目安)、控除される家賃(大都市圏を除けば、概ね15,000円以下)など、事細かに指摘を受けます。

またPOLO東京/大阪では受入企業(特定技能など直接契約の場合)の代表者の面談が行われており、通訳者(受入企業の社員もしくは外部で通訳を業として行う者)の用意が必要など、手間も費用もかかってしまいます(面談が行われないケースもあります)。

ただ、これは基本的に初回のみで、同一職種において同条件での求人登録を再度行う場合は、前回認証済み書類と数種類の指定書類を提出するだけで許可が得られます。

POLOからの推薦状を得られたのち、フィリピン本国で送出し機関によりDMWへの求人登録を行います。

通常2週間から1か月程度の期間を要しますが、DMWから何かしらの指摘を受けるケースは少ないため、POLO審査が終われば実質的に求人登録は問題ないとなります。

4.フィリピン人労働者の自己負担金

通常、フィリピンから他国へ海外労働に出る場合、求職者本人が送出し機関に対し、一定のPlacement Fee(職業紹介手数料)を支払う事が多いです(受入企業による立替―給与控除となるケースを含む)。

ただし、日本向けにはそのような手数料を含む一切の費用の徴収が禁止されており、フィリピン人労働者はほぼ自己負担なく日本へ渡航することができます。

出国時には海外労働許可証(OEC)を取得する必要がありますが、日本大使館の発給するVISA以外にも、強制保険への加入、出国前オリエンテーションの受講など、様々な費用がかかります。

健康診断は自己負担としているケースもありますが、概ね、すべての費用は受入企業負担となり、このことがフィリピンからの受入総数が伸び悩む原因となっています。

国民性:1.南国のおおらかな気質の人が多く、陽気で明るいです。

2.日本人と比べ時間に対してかなりルーズです。

3.日本人と日本の文化、また製品に対する敬意をもつ親日国です。

4.フィリピンは世界第8位の男女格差の低い国であり(ジェンダー・ギャップ指数2018年12月)、女性の社会進出がかなり進んでいます。女性管理職の多さで言っても、世界有数です。

5.フィリピンはいまだに貧富の差が非常に大きい国です。中華系、スペイン系などの財閥支配が続いており、国民の半数は自分たちの家庭が貧しいと感じています。

特徴:DMW(旧POEA)の管理監督により、日本向けの技能実習生、特定技能者などは自己負担がほぼない状態で海外労働へ赴くことができます。

大きな借金を背負っていないせいで給料の多寡に執着することは少ないですが、逆にハングリー精神に欠けるところがあります。

実習生のトラブル等:特に大きなトラブルがないのがフィリピンの特徴ですが、トラブルが起こった際には、POLOもしくはDMWによりその仲裁が行われます。

フィリピン人労働者がPOLOに訴えた場合は、管轄するPOLO(東京もしくは大阪)において、雇用主および労働者本人の主張を基礎として、POLOが仲裁案を提示します。

フィリピン人労働者がDMWに訴えた場合は、労働者の住所を管轄するDMWにおいて送出し機関および労働者本人の主張を基礎として、仲裁案が提示されます。

仲裁案に従って所定の手続き(和解金の支払いなど)を行わなかった場合、DMWにPending case(未決事件)として登録されることとなり、送出し機関はライセンスの更新(4年おき)が受けられないなどの不利益を被ります。

雇用主(受入企業)については、フィリピンからの労働者の受入が停止されます。

また、それとは逆に採用決定後の自己都合キャンセルなど、フィリピン人労働者の身勝手な理由で送り出しができなかった場合など送出し機関が不利益を被った場合は、そのフィリピン人について、DMWに訴えを起こすことができます。DMWが悪質であると判断した場合、そのフィリピン人について海外労働を一定期間認めてくれない(OECを発行してくれない)などの裁定が下されることになります。ただ、実際にはDMWはかなり労働者寄りの判断をするため、認められる例はかなり少ないと思われます。

(余談)

・毎年、クリスマスが年1最大のお祭りイベント

berのつく月(September,October,November,December)からイベントシーズンが始まります。特に11月後半から12月までは浮かれ気分で毎年まったく事務手続きが進まなくなり、日本側では相当なストレスにさいなまれます。

・4年に一度の大統領選。

大統領が変わるとDMWやPOLOのトップが変わり、手続きのやり方や書面、インタビュー、DMWへの契約認証などがほぼ全てやり直しになるなど、何かしら手続きの方法が変わる傾向で、振り回される場合が多々あります。

・OECの有効期間問題(Overseas Employment Certificate 海外雇用許可証)

OECの有効期間は60日です。つまり一度日本へ就労渡航した後の一時帰国は、再度フィリピン国内でOECを受講せねば、フィリピンを出国して再来日できません。よって、送り出し機関によるOEC手続きが毎回必要となります。

・エージェンシーのライセンス期間更新について。

手続きの段取り手配がわかってない先は、ライセンス有効期間が切れる場合があります。DMWからライセンス更新のメールが届いているようですが、公開日に間に合うように前もって手続きを進められない先では、ライセンス失効期間が生まれてしまいます。この事態になると、日本の二国間協定において、有効送り出し機関リストから外れる可能性もあり、寝耳に水で入管申請が許可されなくなるリスクがあるので注意が必要です。

・Job Orderの有効期間

2年なので、忘れた頃に再度登録し直さねばなりません。

また、リクエスト人数を超える採用はできないので、大目に人数を記載しておくと良いでしょう。多くとも、その人数を採用せねばならないとはなりませんので。

※送り出し機関がこういった管理がきちんとできる先は限られています。

・渡比の際の注意

近年では12月にも台風が発生するなど、渡比の際には1年を通しての天候確認が必要です。訪比時に重なると便も欠航となる場合があったり、現地では大雨などで交通移動できなくなる場所もあるのでご注意ください。(6月~11月の雨季時も)

(各空港から直行便が出ています。主だってはフィリピン航空、セブパシフィック航空、JAL・ANAです。)

・転籍、転職がかなり困難な理由

OFWが一人ひとり送り出し機関と紐づいている上に、1社ルールやPOLO認証、DMW認証などもあるため、現実的にはとても困難です。

日本側だけ入管などの手続きをしても、一時帰国などがあると、再来日が不可能となる場合があります。ご留意ください。

・POLOによる実地検査

特定技能の場合、時折、直接企業へ連絡が入り、諸条件の確認や、SSWとの面談などのため、訪問させてほしいと要求される場合があります。そこでPOLOが認証した手続き上の各種条件と実態に齟齬がある場合、受入企業側(監理団体含む)では不利益を被る場合があります。

・登録支援機関について

ことフィリピンとの関係性に限定してのお話ですが、フィリピンでは登録支援機関を、「労働者と受入企業との間に入れてはいけないブローカー」という認識になっています。よって、POLOとの各手続き上においては、受入企業が矢面に立つ必要があり、登録支援機関は一切表に出てはいけません。(代わりに送り出し機関に支援いただく必要があります)

・銃社会リスク

フィリピン在住の日本人も時折、射殺される事件があります。

ドゥテルテ元大統領統時代は、治安は少しずつ良くなっていましたが、コロナ後はまた少し戻っています。どんなに明るい繁華街でも夜道は気を付けて、移動も現地アテンダントと一緒か、タクシーやグラブでの移動を心掛けると無難です。

*マニラの中でもマカティ(都心地)は比較的安心です。

…書き出すとキリがないくらい、色々あるのが外国です。

(参考)

フィリピンの法令分所各種

2023~Department of Migrant Workers (DMW)体制へ移行

https://www.dmw.gov.ph/

*2023年1月現在、POEA単独のHPはなくなり、DMWのHP内にアーカイブとして残っています。

出稼ぎ大国で歴史のあるフィリピンでは、労働者派遣(送り出し機関対象)において、大前提となっている送り出しルールがあります。(日本のみならず、どの国へ向けても)

フィリピンの基本的な海外出稼ぎ労働者に対する大本の法文。

https://www.dmw.gov.ph/archives/laws&rules/laws&rules.html

ここの一番上の、

Revised POEA Rules and Regulations Governing the Recruitment and Employment of Landbased Overseas Filipino Workers – 2016(71ページ)

https://www.dmw.gov.ph/archives/laws&rules/files/Revised%20POEA%20Rules%20And%20Regulations.pdf

※大きく「海」と「陸」と分かれていて、技能実習&特定技能は、ほぼ「陸」バージョン対象となります。

コチラに加えて、技能実習や特定技能といった日本向けには、以下などがあります。

●技能実習に固有の法文

(5ページ)

(介護専用)

(9ページ)

●特定技能に固有の法文

(8ページ)

(技能実習と特定技能両方)

他にも、フィリピンで当該業務に関連する行政機関は、

・DOLE(ドール / ドーレ) Department Of Labor and Employment フィリピン労働雇用省

POLOの上部組織…DMWとの関係性は?…確認中です。

・TESDA Technical Education and Skills Development Authority フィリピン労働雇用技術教育技能教育庁

教育機関としてこのTESDAの許可を持っていないと、日本語教育を実施しても、実施したことになりません。

等があります。

また、諸々気づく不足点、補足点などあれば、適宜修正してまいります。