SNSで検索をしていると、素晴らしそうな経歴・テーマのセミナー開催や、コンサルタントの紹介などを目にすると思いますが、この世界は最終的に向き合うのは、送り出し機関・監理団体・受入企業・外国人材の4者となります。

ネームバリューのある大手企業が徒党を組み、理想的なことを描いても、実際に末端の現場で共に汗を流し、笑顔や涙で過ごす日々の経験や知識には勝つことができませんので、まずは以下のことを基準に自身の行動や判断を行って下さい。

あなたの判断・行動・発言は、送り出し機関・監理団体・受入企業・外国人材の4者の「笑顔」へと繋がるものですか?

この1点に尽きます。

仮に特定の1者が儲かる、得をする、誰かが犠牲になる、還元されないといったことでは、誰かが「不幸」になります。

そこまでして「儲かりたい」という思考では、外国人材の保護も人権確保もできません。この制度は国境を越えて国際問題となりますので、愚かな1人の判断・行動・発言で、他国にまでご迷惑、日本の評価を下げるようなことは行わないで下さい。

もし第三者に対して依存・委託をする場合は、「どこ」と組むのではなく、「誰」と組むかが問題となります。

本気であなたの問題に寄り添える方。まずは見た目、経歴、ホームページの煌びやかな部分ではなく、現在進行形でどれだけ制度に従事している実績を現在もなお積み上げているかで判断をすると大きな間違いはないと思います。


正直、“人権”と聞くと少しとっつきにくい印象や上場している大手企業のみの問題という認識の方も多いと思いますが、実は技能実習/特定技能においても既に“ビジネスと人権”のルール化が進んでいます。

(1)電気電子業界における“RBA”

RBAとは“レスポンシブル・ビジネス・アライアンス”の略で、「電気電子機器製品に関わるサプライチェーンにおいて、労働環境が安全であること/労働者に対して敬意と尊厳をもって処遇すること/環境へ配慮すること等の目的を確実にするための基準“をさします。

RBAは“労働・安全衛生・環境・倫理・マネジメントシステム”という5つの項目から成り立っていますが、その一つ“労働”には「人材斡旋業者またはその委託先業者の就職斡旋手数料、または雇用に関わるその他の手数料について、労働者がそれらを支払う必要があってはならない。労働者がこうした雇用に関連する費用を支払ったことが判明した場合は、その費用は当該労働者に返金されなければならない」と定められていることから、入国前の技能実習/特定技能外国人(以下、技能実習生等)より送出機関が徴収する手数料および諸実費もRBAにおける返金対象となります。

例えば、iPhoneの部品等をApple社に提供している大手電子部品製造業が技能実習生等を受け入れる場合、入国前に本人が負担した費用の全額を本人に返金=本人負担0が数年前から開始されています。

(2)企業独自のルール(SWA等)

このような取り組みは業界単位だけではなく、特定の企業グループでも始まっています。

マクドナルド社は、サプライヤーに対して“SWA(サプライヤー職場環境管理プログラム)”という行動規範を定めており、年1回サプライヤーに対する監査を行っていますが、特に技能実習生の手数料負担については重要項目となっています。

マクドナルド社は、各サプライヤーを色分けしており、例えば、技能実習生等から徴収した費用が、“送出国の法定金額を超過している場合(またはEvidenceが無い/インタビューとEvidence内容が異なる場合)”はRed、“法定金額までの(または超過分を補填した)場合”はAmber、“技能実習生の負担0の場合”はGreenに区分され、Red/ Amberの場合は状況に応じた対応が求められます。

また、手数料だけではなく技能実習生等に負担させてはいけない費用の詳細も決められているため、様々な名目の実費として本人から徴収することも禁じられています。

このように、業界または企業グループごとに技能実習生等を雇用する際に基準を設ける動きが広がっており、特に欧米の多国籍企業(Amazon/ Costco /Coca-Cola等)と直接取引がある企業においては既に何らかの規制がスタートしています。

(3)日本国内の動き

欧米諸国に対して遅れはとっているものの、日本国内でもビジネスと人権のルール作りが開始されています。国際的な業界団体の日本支部である“日本サスティナビリティ・ローカル・グループ”が作成した「技能実習生・特定技能としての外国人労働者の責任ある雇用ガイドライン」では、技能実習生等を雇用するまたは受入れを予定する企業(サプライヤー・製造委託先含む)が取り組むべき項目が記載されています。

1.関係法令の遵守

全ての労働者には仕事を行う国・地域の雇用に関わる法律が適用され、使用者はそのサプライチェーンにおいても関連法令を遵守する各種法人・個人と取引を行うこと

2.人権の尊重

使用者は外国人労働者の直面する、法的・社会的・文化的・宗教状況を理解するように努め、尊厳と尊敬をもって接すること

3.外国人労働者雇用方針の策定

使用者は外国人労働者の専門家や市民社会と協力し、外国人労働者の雇用に関する方針と行動計画を策定すること

4.仲介業者等(送出機関・監理団体・登録支援機関等)の利用

使用者が外国人を雇用する際は、本ガイドラインに同意し、労働者の権利を遵守する適切な許可を持った仲介業者等を利用すること

5.強制労働、差別の禁止等

使用者は全ての労働者を強制的な労働から保護し、外国人労働者を他の労働者と差別し不利にならないよう平等に扱うこと

6.仲介手数料とその他関連費用の制限

募集や斡旋にかかる費用、渡航費用など全ての採用に関連する費用は使用者が負担し、外国人労働者から徴収しないこと

7.雇用条件

使用者は、外国人労働者の理解できる言語で、明確な労働条件通知書および雇用契約書を作成し、渡航前に労働者の同意のうえで契約を結ぶこと

8.採用時の研修など

使用者が労働者を雇用する際に必要な研修は、労働者の金銭的負担や差別・ハラスメントのないように行うこと

9.労働基本権

使用者は外国人労働者が、労働組合に加入し団体交渉をしたり、従業員代表制などに参加したりする権利を保証すること

10.労働者の強制労働からの自由

使用者は外国人労働者の自由な外出、休暇の取得・一時帰国を認め、強制的な貯金をさせないこと

11.身分証明書等の保管の禁止

使用者は、外国人労働者のパスポート等私文書を取り上げたり保管したりしないこと

12.賃金及び労働時間

使用者は雇用契約書等で定められた期日に、法令に則った適切な時間外労働の対価を含んだ適切な額の賃金を、労働者に直接支払うこと

13.安全衛生

職場環境と生活環境は、衛生で安全が確保される必要があり、使用者はそのためのトレーニングを外国人労働者の理解できる言語で行うこと

14.苦情処理制度

使用者は、報復や解雇など不利益を被らずに、外国人労働者が理解できる言語で利用することができる、信頼性のある相談窓口や法的な救済制度を利用できるようにすること

15.契約終了・解雇

使用者は、契約途中であっても、労働者の自由意思による退職・転職を尊重し、使用者理由の解雇の際は適切な手続きと支援を行うこと

16.帰国費用

外国人労働者の帰国費用(契約終了後の帰国、再雇用の一時帰国、使用者の瑕疵による帰国)は、使用者が負担すること

ご覧になって頂いたとおり、ほとんどの項目が技能実習法等関係法令に含まれていますが、やはり国内業界団体のガイドラインにも“全ての採用に関連する費用は使用者が負担し、外国人労働者から徴収しない(以下、本人負担0)”との記載がされました。

(4)日本政府の動き

2022年に経済産業省は、“責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン”を公表しました。
人権は非常に広範囲にわたりますが、技能実習についても複数個所記載があります。

●4.1.2.2 脆弱な立場にあるステークホルダー

例:技能実習生を含む外国人や女性に対して、脆弱な立場の従業員における人権課題 一般(例:外国人や女性であることのみを理由とした賃金差別)や、新型コロナウイルス影響下での労働環境の変化等について、ヒアリング等の調査を実施し、特定された課題に対応する。また、調査に当たっては、対象者にとってコミュニケーションが容易な言語を用いる。

●4.2.1.1 自社が人権への負の影響を引き起こし又は助長している場合

例:法律によって明示的に禁止されているにもかかわらず、自社内において、技能実 習生の旅券(パスポート)を保管したり、技能実習生との間でその貯蓄金を管理する契約を締結していたりしたことが発覚したため、社内の他部門はもちろん、サプライヤーに対しても、そうした取扱いの有無を確認するとともに、それらが違法であることを周知し、取りやめを求める。

●4.2.1.3 取引停止

例:サプライヤーが、技能実習生に技能実習に係る契約の不履行について違約金を定める契約の締結を強要したり、旅券(パスポート)を取り上げたりしている不適切な 状況が確認されたことから、そのサプライヤーに対して事実の確認や改善報告を求めたが、十分な改善が認められなかったため、実習先変更や転籍支援を行う監理団体に対して連携・情報提供するとともに、そのサプライヤーからの今後の調達を行わないこととする。

●4.2.3 構造的問題への対処

例:技能実習生を受け入れている企業は、悪質な仲介業者が介在していないかや不適正な費用を技能実習生が負担していないか等を、監理団体と連携しながら技能実習生本人や現地の送出機関に対して確認する。特に、ベトナム社会主義共和国から技能実習生を受け入れている企業は、日本政府がベトナム政府との間で合意した技能実習生等の送り出しに関するプラットフォームの運用が開始された際には、送出機関が同プラットフォームを活用することを促す。

●5. 救済(各論)

例:自社において、技能実習生との合意に基づかない家賃や光熱水費の天引きが行われていたり、夜間労働に係る割増賃金の支払いが適切に行われていなかったりしたことが発覚したことを受け、天引きについて丁寧な説明を実施した上で技能実習生の自由意思に基づく承諾を得るとともに、未払金を即座に支払う。

このように経済産業省が公表したガイドラインには、技能実習生等の本人負担に関する記述はされませんでした。
ただ2023年以降には技能実習/特定技能の法改正が控えていることもあり、“ビジネスと人権”の内容が改正法案に含まれてくる可能性も十分にありえます。

(5)各社および仲介機関の対応

先述の通り、技能実習生等におけるビジネスと人権については、ほとんどの項目が既に関係法令で定められている範囲内ですので、実習実施者(特定技能所属機関)および監理団体(登録支援機関)として改めて対応が迫られるのは“本人負担0”の問題が中心となります。既に本人負担0の取り組みを始めている企業があることはお伝えしましたが、単に本人が支払った費用を全額返金すればよい…と簡単なことではなく、決めなければいけない項目が非常に多岐にわたります。

  • そもそも、どの国なら手数料0が実現可能なのか
  • どの監理団体(その先の送出機関)なら手数料0の対応が出来るのか
  • 送出機関に対して、いくら日本側が支払えば、送出しをしてもらえるのか
  • 現地側が求める金額を実習実施者が負担可能なのか
  • 入国前講習期間中の食費や寮費、本人の田舎から送出し機関までの交通費…なども含め
  • 完全に0なのか
  • 送出し機関に登録する前に本人の田舎にてブローカーに支払った費用も含まれるのか
  • 入国後に費用を負担していたことが判明した場合はどうするのか …等

手数料0の実現は、関係者が国内外に分かれ、送出国の商習慣に口出しを行う改革となりますので一筋縄ではいきません。地方のブローカーに対して抑止力を効かせる仕組みも必要です。また、本人負担0により来日したものの、思っていた職種・作業と異なるという理由で、日本側負担で帰国する事例も出てきていることから、人材の選定精度を高める仕掛けも必要となるでしょう。
あくまでも本人負担0は、従来の日本語能力や就労態度といった基礎的な要素に追加される基準に過ぎません。
そもそも、ここまでして技能実習生等を入れる必要があるのか?と思われる方もいるかもしれませんが、現在、世界的な人材不足により、送出国では日本以外の国への送出しも活発化しています。
これまでは監理団体・送出し機関に任せておけば数倍の候補者から選び放題だった実習実施者も、今後真剣に自社の人材戦略を考えなければ、近い将来、日本人はおろか外国人からも見向きされなくなる時代が到来するかもしれません。


入国管理局としては外国人に関する人権に対しては非常にナーバスです。人権の保護に関して熱心な活動をされている方がメディア等で人権の保護について叫んでいますのでその影響もあるでしょう。
個人の見解ですが、「外国人であれ日本人であれ平等に扱うこと」が大切だと考えます平等とは、その人が持つ能力や労働について適切に評価する基準を作ることではないかと思います。
世界的にみると、CSRを基にしたRBA等の世界的労働基準も整備されつつある業界もありますので、日本もそれに合わせていく意識を持っていくことが必要です。その基準があった上で、労働をする者としての義務を果たし、労働者としての権利を主張することでお互いの意識を同一化することが重要です。


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